雨雨坊主

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 あれはわたしが小学校二年のことだった。わたしは学校から帰る途中で、突然の雨に降られ、慌てて近くの寺の境内に避難した。雨は次から次へと降ってきて、しばらく止みそうになかった。    すると視界の端で、ふらふらと揺れているものがある。見ると、すぐ目の前のご神木の枝に、無数のてるてる坊主が吊るされているのだった。不敵に笑いながら、くるくる回って、揺れている。わたしは彼らに見張られているような気がして、恐ろしくなった。    びしょ濡れになる覚悟を決めて、屋根の下から飛び出そうとしたその時、ふと木の根元に落ちている、小さなてるてる坊主が目に飛び込んできた。    半分水たまりに浸かっているそれは、他のてるてる坊主とは違って、泣いているように見えた。わたしの胸に、言いようのない思いが込み上げた。わたしはそのとき、「サンタを信じているなんてダサい」という理由から、茜ちゃんにいじめられていた。    わたしはそれを拾い上げると、ぎゅっと片手に握りしめ、家まで一目散に走った。そして泥に濡れたそれを洗って、軒下に吊るした。  しかし梅雨時だったので、雨はそれからしばらくの期間、一向に降り止まなかった。わたしはいじめられているわたしの分まで、空が泣いてくれているのだと思った。そう思うと、すこし気楽な気持ちになれた。 「もっと降らせて」わたしはてるてる坊主に注文した。「わたしの分まで」  梅雨の終わり頃、茜ちゃんとわたしは和解した。ただしそれは、「もう二度とサンタを信じない」という条件付きの和解であった。その翌日、頭上に何日かぶりの青空が広がった。    そして、てるてる坊主はいなくなった。隣に吊るしておいた、ピンク色の傘とともに。
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