雨雨坊主

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 参道を歩くと、日差しはいよいよ強く降り注いだ。参拝客が足を止めて、わたし達に優しい、慈しむような視線を向けた。おめでとうございます、と声をかけられるたび、わたしの心は重く沈んでいった。  この日のために呼んだカメラマンが、ご新婦さま、もう少し笑顔でお願いいたします。と苦笑いで告げた。わたしは無理やり、ぐにゃりと顔を歪めてみせた。カメラマンは途中から、もうすっかり諦めたように見えた。  わたしは唯一の救いを求めて、父の方を見やった。父はわたしに対していつも厳しい人だから、きっとむすっとしているわたしを見かね、目が合った途端に、睨みを利かせてくるに違いないと思ったのだ。  しかし父はひときわセンチメンタルな、涙を必死に堪えているような顔で、こちらを見ているのだった。わたしはそれでますます嫌になった。今すぐ逃げ出して、家へ帰りたいと思った。
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