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16.地獄
「やめっ……!」
「黙れ研究材料。」
木霊が父親の服の袖に手を伸ばし、振り払われた頃には、既にそこは地獄という言葉が似合う、禍々しいオーラに包まれた世界へと変化していた。
「ここが、地獄……。」
「研究所はすぐそこだ。ほら、研究者が欲に満ちた顔でこっちを見てる。」
そう言われて若菜が籠から顔を出すと、研究者と呼ばれた鬼達は、顔をしかめた。
「おい、鬼灯!」
「あ?」
ドスドスと走って来た研究者は、籠を指差して、地団駄を踏んだ。
鬼灯と呼ばれた父親は、研究者よりも酷いしかめっ面で睨み付けている。
「人間を連れ込むなと何度言ったか!」
「うるせぇ。お前らも鬼だろ。人間の肉ぐらい自分で用意しないでどうする。」
「俺は鬼だが、誇り高き研究者だ。人間の肉など食わん。」
「うるせぇ、木霊を用意したんだから良いだろ!」
その姿を見て、「鬼とは思えない情けない喧嘩だ」、と木霊は若菜に耳打ちをした。
「ふふっ。本当だ。」
二人はその一瞬、普通の友人のようだと、心の何処かで思っていたのだった。
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