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 四月の第一週の平日。  十九時を過ぎ、暗くなった道を歩いていた。  その日、僕は大学の図書館に置かれているパソコンで、趣味である小説の執筆に勤しんでいた。家にも自分のパソコンがあるから、家でやればいいかもしれないが、気分を変えてみたくもなる。ずっと閉じこもっていると、精神的によくない気がした。  興がのった僕は、長時間に渡ってキーボードを打っていた。  ふと窓の外を見ると、日が傾きかけていた。  それを合図に、僕は帰宅することにした。  大学から家までは二つの電車を乗り継ぐ必要がある。いっけんするとお金の無駄に思えるかもしれないけれど、通学定期の範囲内だから問題ない。  僕が歩いている道というのは、目的地である僕の家の最寄り駅からの家路だ。  駅を出ると、帰宅する会社員や学生を目当てにした飲食店の、看板の灯りが目につく。今日は外で飲む気分でもないから、それらを無視して足早に離れた。  駅からちょっと離れただけで、街の様相は繁華街から住宅地に様変わりする。バス通りの裏道なので、人通りはまばらだ。  いきつけの喫茶店にも今日は立ち寄らす、自宅であるボロアパートへの最短距離を進む。  角を曲がった時だった。  付近の住人が利用するゴミ捨て場。  その前を過ぎたところに自分が暮らすアパートがあるのだが、僕は足を止めた。  ゴミ捨て場は道路に面している辺以外は、ちょうど腰くらいの高さのコンクリートブロックの壁に囲まれているのだけれど、そのゴミ捨て場から何か黒い物が飛び出ている。  それは黒い革靴だった。  それだけなら、ゴミとして捨てられたのだなということで、なんということもない日常風景の一つでしかない。  けれど、そうじゃなかった。  白い靴下がさし込まれている。  いや、回りくどい表現はやめにしよう。  革靴、靴下。その先には、街灯に照らされる足が見えた。  足は脛のあたりまでしか窺えない。そこから先は、ブロックの壁が死角になっていて見ることはかなわない。  まだ僕は冷静だった。  最初は、酔っ払いかと思った。  しかし、それにしては時刻が早すぎる。  僕は歩き出す。  そしてまた止まった。  進むことによって見える範囲が広がっていくのだが、脛、膝ときて、濃紺の布が見えたのだ。  スカートだ。  女性が平日の十九時に、あろうことかゴミ捨て場で寝ている。  僕はできうる限りゴミ捨て場から距離をとって、また歩く。帰宅するにはそのゴミ捨て場の前を行くほかにない。  急に彼女が起き上がって、痴漢にでも間違えられたりしたら、たまったものではない。僕の人生はその時点で、ジ・エンドだ。終わったところで、たいした価値があるものでもないが、嫌なものは嫌なのだ。  投げ出された手の平が見え、スカートと同系色の服の袖が姿を現す。  ここで僕は、足を速めた。  僕は女性ファッションというものが分からない。だからこの認識は間違っているかもしれない。衣服の上下が同色の紺色で、革靴を履いているとなると、僕にはその女性が高校生ないし中学生にしか思えなかったのだ。  果たしてそこにいたのは、見覚えのある制服に身を包んだ女子高生だった。  ゴミ捨て場に女子高生が寝ているというだけでもすでに異様な光景なのに、あるものを発見した僕は、ついに息を止めた。  コンクリートブロックの、彼女の頭上には赤黒い液体が、街灯の白い光に照らされていたのだ。  僕の体は電撃を浴びたかのようにその場で震え、硬直してしまった。背中には悪寒がはしり、全身の毛という毛が立つのが分かる。  ――うぅ……――  僕は彼女が死んでいると思いこんでいた。  ところが彼女が呻き声をあげたので、呪縛が解けたかのように素早くスマートホンを手に取った。僕は救急通報した。
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