再会

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再会

 エレベーターに乗ってこの建物の最上階ニ九階に昇る。エレベーターを降りると社長秘書の女性が待っていた。 「お待ちしておりました。川上さん。私が高橋です」  その女性は軽く雄二に会釈した。 「こんにちは、高橋さん。宜しくお願いします」 「それではこちらです」  彼女は直ぐに雄二を先導して歩き始めた。雄二は役員フロアに入るのはこれで四回目だったが、いつも課長の武川に同行だったので一人でここに来るのは初めてだった。エレベーターホールの出口に役員フロアに入るセキュリティーゲートがあり、そこは雄二のIDでは通ることは出来ない。高橋が自分のIDを(かざ)し、雄二を中に通してくれた。  高橋に続いて役員フロアの廊下を歩くと、左側にいくつかの会議室が並び、右側に役員室が並んでいる。高橋は真っ直ぐに進んで行き、一番奥の役員室のドアをノックした。そのドアには『代表取締役社長 豊国』というプレートがあり、ここが社長室であることを雄二も直ぐに理解出来た。 「入ってくれ」中から声がする。 「失礼します。川上さん、お入り下さい」  高橋は社長室のドアを開けると雄二を中に入る様に促した。  失礼しますと声を上げ、雄二が中に入ると奥の執務席に社長の豊国正一が座っているのが見える。  彼はまだ五二歳。日本の自動車会社の社長の中ではズバ抜けて若い。それは創業者『豊国正蔵』の息子ということが一つの要因であったが、社長としての実力も素晴らしいものであった。社長に就任して五年、豊国自動車の業績は順調に拡大しており、今はグローバル販売台数一千万台を超え、利益率は自動車業界最高の十五パーセントを誇る日本一の企業に成長した。その手腕は誰もが舌を巻いており、今となっては親の七光りと言う(そし)りを受けることは全く無くなった。
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