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そして右側の応接席に二人の人物が座っているのが見える。一人は昨年、豊国自動車をリタイアされた創業者の豊国正蔵前会長。直接お会いするのは初めてだった。そして、もう一人の女性が雄二を見て軽く会釈をした。彼女は朝、豊国中央駅で出会ったあの女性だ。確か名前は理紗さん……。
ドアが後ろで閉まると、社長の正一が執務席から立ち上がって満面の笑みを見せてくれた。
「川上君。良く来てくれた。さあ、そちらに座ってくれ」
正一は前会長達が座っている応接席を指してそう言った。
「あっ、はい」
雄二は一瞬躊躇いを見せたが、諦めた様に元会長と女性の前に腰を降ろした。
最初に元会長の正蔵が雄二に声を掛けた。
「川上君、理紗から聞いた。君は妻を助けてくれたんだって?」
雄二はやっと理解した。朝、助けた車椅子の女性は、元会長の奥様、つまり社長のお母様だ。と言うことは、理紗さんは……社長のお嬢さんだ……。
「あっ、はい。でも、偶然、私の前で奥様の車椅子が暴走されたので。 だから当たり前のことをしただけです」
丁度、社長が向かいの席に腰を降ろした。
「母を助けてくれて本当に感謝しているよ。ありがとう」
社長が大きく頭を下げたので、雄二はお顔を上げてくださいと言った。理紗を見ると満面の笑みで雄二を見ている。
「川上さん、ありがとうございます。祖母も本当に感謝しておりました。ここには通院の為、来られませんでしたが、良くお礼を言っておく様に言われています」
理紗は本当に嬉しそうにしている。でも雄二には一つだけ疑問があった。
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