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「えっと理紗さん。どうして僕がここに勤めているとご存知だったのですか? 僕は連絡先をお話ししなかったと思いますが」
理紗がクスッと笑い、雄二の胸を指差した。
「川上雄二さん。それです。駅でもそれを首に掛けていました」
「えっ?」
雄二は自分の胸に掛かっているIDカードを見た。そうか、これを見れば、名前も豊国自動車に勤務していることも分かってしまう。今日は面倒くさくて朝からIDを首から下げていたんだ。
顔を上げると理紗がクスクス笑っている。
「でも、良かったです。命の恩人の連絡先が分かって。朝、父に電話して、直ぐに貴方を見つけて貰ったから、祖父と一緒にお礼に来ることが出来たの」
そう言う理紗の笑顔は眩しいほど輝いていた。
「川上君、本当にありがとう。汚してしまったズボンは私に弁償させてくれ。それとこれを受け取ってくれ」
前会長の正蔵が雄二にチケットを手渡してくれた。
「これは?」
「君は豊国中央駅に住んでいるのだろう。来週の日曜日、駅前に市立豊国図書館がオープンする。そのオープニングイベントへの招待状だ。是非、遊びに来てくれ」
雄二も日曜日のオープニングイベントのことは知っていた。芸能人も呼んで盛大に催される予定であり、イベントのチケットは大変な人気で既に入手困難な物だった。
「私も行くの。是非、いらっしゃって下さい」
理紗のその言葉を聞いて、雄二の気持ちは決まった。
「はい、ありがとうございます。是非参加させて頂きます」
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