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「お爺ちゃん。彼、いい人でしょ?」
雄二が社長室を出て行くと理紗は隣に座る正蔵に満面の笑みで問い掛けた。
「当たり前だ。豊国自動車、日本一の企業の社員だぞ。素晴らしい人物に決まっている」
社長の正一が続ける。
「人事査定データーを見たが、彼は三年目で既に設計リーダーのポジションだ。そして全社で三パーセントしか居ないハイポ(ハイポテンシャルパーソン)に登録されている。将来の役員候補の一人だな」
理紗が「でしょう?」 と言って嬉しそうに頷いた。
「お父さん、彼の連絡先、教えて貰ってもいい?」
「そうだな、会社のメールアドレスなら。それでいいか?」
「うん、ありがとう」
その会話を横目に正蔵はテーブルに出されたお茶を一口飲むと、正一に問い掛けた。
「それで、プライムの事故の解析は進んでいるのか?」
途端、正一の顔が険しくなる。
「開発部門の中西副社長からは、ブレーキとアクセルの踏み間違えと言う報告が来ていますが、まだ私は納得出来ていません。私の指示で販売済みの新型プライム全車のADAS制御ソフトウェアのアップグレードをリモートで先週行いました。これにより市場で走っている全プライムのドライブレコーダーのカメラ映像と走行データーをリアルタイムで会社のクラウドサーバーへ送信して、その蓄積が始まっています」
正蔵が頷いているのを見て正一が続けた。
「そのアップグレード後、まだ暴走事故は起きていませんが、これで事故が発生すれば直ぐに解析が出来ると思います。併せて、社員のプライムには更にバックアップとして、OBD2のポートにドングルを取り付けて、車載したスマホにカメラ映像と走行データーを蓄積出来る様に改造しています。今日、乗って来て頂いたお父さんのプライムにも、今、取り付け作業を行わせています」
もう一度、正蔵は頷きながらも、自分のカバンから週刊誌を取り出しテーブルの上に置くと、怒りを露わにした。
「私の会社への、この様な中傷は絶対に止めさせなければ……」
週刊誌の表紙には、衝撃的な見出しが躍っていた。
『殺人マシン! プライムミサイルの衝撃!』
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