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「急がないと爆発してしまう」
雄二は割れている後席窓から『理紗』に声を掛けた。
「理紗さん! 今、引き出すからシートベルトを外して!!」
事故の衝撃で朦朧としていた彼女は、その声を聞き、ボンヤリと雄二を見た。
「雄二さん……」
「理紗さん、早くするんだ!!」
雄二の緊迫した声を聞いて彼女はハッとして急いでシートベルトを外すと、後席窓から手を出した。雄二は力を込めて彼女を窓から引きずり出した。
そのまま彼女を床に降ろして彼は言った。
「豊国さん達を助けるから、ここで待っていて!」
理紗が頷くのを見て、雄二は助手席に駆け寄った。そして同じく割れた窓から助手席に座る夫人を引き出した。丁度、運転席側でも他の何名かの男性が運転席の男性を救出していた。雄二は夫人を抱えると床に蹲って震えている理紗に叫んだ。
「理紗さん! 車が爆発する。店の外に出るんだ!!」
雄二を振り返った理紗は大きく頷き、フラつきながら店の外へ歩き出した。雄二が夫人を抱いて外に出ると、運転席の男性も二人の男性に抱えられ店の外に出て来た。
その瞬間だった。夫人を抱えている雄二の背中で『プライム』が爆発した。車は店の中で物凄い炎を上げている。幸いなことに巻き込まれた人は居ない様だ。
雄二がホット胸を撫で下ろして振り返ると、本屋の十メートル程先の歩道に人集りが出来ているのに気付いた。理紗がその場所へフラフラと歩いていくのが見える。そして、その人集りの中を覗いて彼女は悲痛な叫びを上げた。
雄二がそこに近付いて見たのは、通常では考えられない角度で身体を折り曲げ、大量の赤い液体の上に横たわる、若い女性と乳児の遺体だった。
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