出会い

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出会い

 暴走事故の起きる六日前  その日も川上雄二はいつもの様に自分のベッドの上で目を覚ました。未だ(まどろ)んだ頭のままベッドの横のカーテンを開ける。そこには雲一つ無い真っ青な空が広がっていた。 「今日も綺麗な青空だ……」  頭を少しずつ覚醒させながら彼はそう呟いた。  雄二は青い空を見上げるのが大好きだった。彼は、この透き通った青空を守る為に今の職業を選んだのだから……。  二十四歳の雄二は現在この広い自宅に一人で住んでいる。両親は自宅で営んでいた本屋を廃業し、半年前にこの神奈川県から北海道へ移住していた。雄二もこの広い自宅を持て余しており一度は引っ越しを考えたが、結局ここでの暮らしを選択している。  身支度を整え、朝食を自分で準備して食べる。歯を磨いて髪と身なりを整えると階下に降りた。  この自宅は二階が居住スペース、一階が本屋の店舗の造りだった。一階には未だ沢山の本棚が並んでいるが、新作の本は全て問屋に戻してしまったので殆どの本棚は空状態だ。ただし父が趣味で扱っていた古本が未だ二千冊程残っていて、この一部は自宅の近くに一週間後にオープンする豊国市の市立図書館に寄贈するつもりだった。  店舗を抜けて自宅を出ると、眩しい日差しが降り注いでいる。彼は自宅の前のT字路交差点の横断歩道を青信号になるのを待って渡った。そのまま真っ直ぐ歩いていくと、歩道の横に建設中の大きな建物が見えて来る。ここが豊国市の新しい市立図書館になる予定だ。  建設中の図書館を横目に見ながら更に歩くと直ぐに豊国中央駅に到着した。自宅からほんの五分。雄二にとってこの利便性が自宅を離れられない理由だった。
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