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改札を抜けてエスカレータを駆け上がる。雄二はホームでいつもの電車を待っていた。
その時、電動車椅子に乗った老婦人が若い女性と一緒にホームに上がるエレベーターから降りて来た。普通の男性であれば、若い女性の方に目を奪われてしまう所だが、機械オタクの雄二はちょっと違った。彼はその最新型の電動車椅子の方に目を奪われていた。
「HILLのモデルCR。自動運転仕様の最新電動車椅子だ。初めて見た。あれが障害物や人を検知するステレオカメラか……」
彼の前を通り過ぎるその車椅子は洗練されたデザインを持っていて、とてもスマートな外観だ。何より技術の粋を集めた最新テクノロジーを車椅子に搭載するセンスに素直に感動した雄二は、
「カッコいい……」
と声に出して呟いていた。
その時だった。雄二の前で電動車椅子が唐突に急加速した。老婦人と若い女性が同時に声を上げる。
「えっ? 何で!?」
「おばあちゃん! 危ない!」
雄二はそれに気づいて車椅子の手押し部分を掴もうとしたが、一瞬、間に合わなかった。電動車椅子は左へ少し角度を付けてホームの端に向かっている。その先は線路だ。
雄二は走りながら頭から車椅子に飛びついた。何とか右手が車椅子の下面のフレームを掴んだ。しかし、そのままホーム上を引き摺られてしまう。彼が顔上げると車椅子の後部に赤い主電源スイッチが見える。雄二が右手でそのスイッチをオフにすると車椅子はホームの端から三十センチの所で停止した。
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