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雄二は肩を撫で下ろしながら立ち上がると、車椅子に乗っていた老婦人に声を掛けた。
「大丈夫ですか?」
老婦人がゆっくり振り返り頷いた。その顔は未だ引き攣っている。
「あ、貴方が助けて……?」
彼女の問いに雄二が頷いていると、後ろから連れの女性が走って来た。
「おばあちゃん、大丈夫?」
「あぁ、理紗。うん、この方が助けてくれたの」
理紗と呼ばれたその女性は雄二を向き直ると大きく頭を下げた。
「私も見ていました。祖母を助けてくれて、本当にありがとうございます」
雄二は。頭を上げたその女性の顔を初めてマジマジと見つめた。
(年齢は僕より少し若いかな……。とても可愛いい……)
そう雄二が思っていると、丁度、雄二の乗る電車がホームに入って来る。
「あっ! ズボンが汚れています!」
彼女がそう言ったので雄二が自分のズボンを見ると両膝から上が白く汚れていた。雄二は膝をポンポンと叩きながら首を振った。
「こんなの問題無いです。それでは僕はこの電車なので、ここで失礼します。車椅子、修理に出すまで電動では動かさない方が良いですよ」
そう言って雄二は電車に乗り込んだ。
「あの、お礼を。せめてズボンのクリーニング代を」
「いえ、当然のことをしただけですので。お気になさらないで。それじゃお気を付けて」
電車のドアが閉まると、会釈している理紗を見ながら彼は連絡先でも聞いておけば良かったと考えていた。
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