1話 未来が見られれば

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1話 未来が見られれば

ここは東京。今の東京は6月を迎え、非常に気温が高くなっている。いつも25度くらいに達し、非常に初夏らしさはない。 そんな東京の調布市、とあるアパートの一室では、目覚ましによって起きた若い男性がいた。彼は、とても辛そうな顔をしている。 「うぅ……昨日テンション上げて食い過ぎたのがこの結果か……」 どうやら、昨日食べ過ぎただけのようだ。どちらかと言うと痩せていて、よく食べる体格じゃなさそうなのに、アホなのかもしれない。 だが、昨日テンションを上げたというのは、彼にとっては当然だろう。何故なら、彼は前から夢見ていた『調布市未来予測研究所』に配属されることになったのだから。 ちなみに、彼の名前は江島隼人。社会に出たばかりで、研究者の道を歩んでいる真っ最中だ。 隼人は、ノンフィクションとフィクションを両立する思想を持っている。と言うより、フィクションをノンフィクションに変えることが研究者のすることだと考えている、と言った方が正確か。 そのため、未来を見ることも夢である。未来を見るなんて、今はフィクションの世界の話だ。異世界物とかによくあるが、それがノンフィクションになるのなら、隼人にとって、それほど嬉しいことはない。 まあ、ノンフィクションとフィクションを両立する思想は、彼が異世界物を読むうえで、オタクと言われないようにするための言い訳のようなものでもあるが……。 そんな隼人は、用を足し終え、テレビをつけて朝食を用意する。昨日食べ過ぎた為、今日は量が少なめだ。 「眠い……腹が痛すぎて、あんま眠れなかった……」 そんなことをブツブツ言いながら、朝食を食べ始める。そんな中、テレビではニュースをやっていた。やはり、オルメカ文字の解読についてのニュースが多い。 これは、当然の結果だ。 「こんな世界が変わるような研究に俺は関われるんだ。頑張らなくちゃな」 隼人は、テレビを見ながら強く意気込む。今意気込む必要性は全く無いのだが、きっと意気込みたい気分なんだろう。 『次のニュースです。突如姿を消した日本の最高峰の研究者である、永野哲平さんの所持物がいくつか山奥で発見されました。どうやら、永野さんは行方不明になった日、友人と山奥にキャンプに出掛けたようで、その永野さんの所持物以外にも、永野さんの足跡と思われるものがいくつか発見されました。警察は、その周辺で何らかの事件に巻き込まれたと見て調査を進める方針を見せています』 そして、次のニュースが流れた。どうやら、最近起きた誘拐事件のニュースである。ここ2、3日は結構流れているニュースだ。 この事件に巻き込まれたとされる永野哲平と言う人物は、日本でも結構有名な研究者であることから、金品を狙った犯行であると言われている。 「有名な研究者も大変なもんだ……有名にはなりたいが、誘拐とかはされたくないね」 隼人はニュースを見て、そんな感想を残して朝食を食べ終わる。そして、歯を磨き始める。 このニュースは、隼人に全く関係ないことだとは言いきれない。隼人の目標は、有名な研究者になることなのだ。その隼人は、そこまで興味無さげだが。 隼人は歯を磨き終えると、支度の仕上げをして、部屋を出る。 研究所は、同じ市内に有りながら、自転車で行ける程度の距離にある。 今日は、研究所に行く道を確認してから買い物をして、またここに戻ってくる予定である。昨日配属が決まったとは言え、今日からすぐってわけでもないのだ。 「ふぅー、暑いな今日も」 隼人は自転車に乗った。やはり、外は暑い。でも、今日はいい天気だ。広い青空が広がっていると言った感じ。 梅雨に入りつつあると言うのに、今日はラッキーなのかもしれない。 そして自転車をこぎ始める。今日は極力暇な為、ゆっくりと。隼人は少しボケたような顔をして、道を通って行く。 そんな隼人であったが、急に異変が起きる。なんと、目眩がしたのだ。 「何だ?寝不足か?」 隼人は眼を擦りながら、自転車をこぐ。その為、その時の隼人は前がよく見えていなかった。そんな隼人に、別のところから声がかかる。 「き、君!前を見ろ!」 「……え?」 その瞬間、隼人の横から車が通る。隼人は、その車の下敷きになってしまった。 「ぐわっ!!」 「だ、大丈夫か!?」 「救急車、救急車を呼べ!」 周りは、騒然とした雰囲気になっている。車を運転していた運転手は、焦りながら車を避け、隼人の元に駆け寄る。 「なに飛び出してるんですか!今、救急車を呼びますからね!」 「あ、ああ……」 隼人はそれに答えつつも、青空を見て、このまま死ぬことを悟る。 これは、いきなりの悲劇だった。この世は残酷だ。何も隼人は悪いことをしてはいないのに。 地面は赤く染まり、隼人は青空から目を背け、そして目をつぶり始める。 (熱い……本当に『あつい』ってのは、こういうものなのかもな) 隼人は口をパクパクし始める。 やっと歩き始めることが出来た、研究者の道だったのにーー 「……未来が……見られれば……」 そんな言葉を最後に、江島隼人はこの世を後にした。
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