1.狐の嫁入り(後編)

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「よくわからないけどな」 足元が覚束(おぼつか)ない自分に苦笑して、その場に座ったまま話を続けた。 「俺は、あの山しか知らないから、あそこから離れようとは思わないんだ。俺が山を出ないから、お前から山を出ていったんだろ」 女は図星を刺されたように押し黙る。 「けど」鬼の苦笑が微笑に変わる。 「姫さんなら、どこだろうと一緒にいてくれるような気がしてさ」 鬼は、腕に巻き付いた尾の感触と、腕の中のぬくもりを思い出し、歯を見せて笑った。 「まあ、小さくても、抱き心地はいいんじゃねーかな、ふさふさして」 それは小動物に対する感想じゃないの、と女が眉間に皺を寄せて反論するが、相好(そうごう)を崩した鬼の様子を見て、諦めたように溜め息をついた。 「はいはい、わかりました。私の負けです」 急に女の言い方がぞんざいになり、え、と鬼は目を丸くした。 「(おさ)にも言っておくわ。まあどこかでもう見てるかも知れないけど」 すっと立ち上がった女を見上げ、え?なんだ?おさ?と、困惑顔で鬼は問うが、それに対する返事はない。 しあわせにね、と言う言葉が聞こえたかと思うと、一瞬ののち、女は座敷からいなくなっていた。 なんなんだ一体、と思考を巡らせたが、酔いのせいもありすぐにどうでも良くなった。 鬼はそのまま、また深い眠りについた。
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