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天狗は16歳になった。
山で最初に鬼と会ったとき、4歳の天狗と背格好がほぼ同じだったので、鬼も同い年、すなわち16歳ということになっている。
だが、言うことは幼子のままだ。気を許した相手ということもあるが、愚直と言えるくらいに言いたいことが言えるのは、生来の気質なんだろう。
両親の元で恵まれて育った天狗は、むしろ逆だ。
愛情を受けているのがわかる分、直接、親に我が儘を言ったことがない。
たまに、鬼に向かって愚痴はこぼすが、あくまでも冗談まじりだ。
しかし、付き合いも長い鬼は、わかってるのかわからないのか、天狗が求める返事を返してくれる。
大天狗が鬼を救った格好になっているが、救われたのは、竹馬の友を得た天狗の方なのかも知れなかった。
「まあまあ、代替わりはまだ先だよ。烏天狗たちが噂してるのは、ちょっと違う話だ」
王手を指しながら言う。
え?あ?うわー、と鬼が頭を抱えて、拗ねたような顔をする。
天狗が容赦なく鬼を負かして鬼が悔しがるというのは、この天狗の屋敷に出入りする者たちにとっては見慣れた光景だ。
いま、屋敷には、天狗の母親がいるが、もうじき離れて暮らすことになる。多少さみしいような気持ちはあるが、これこそ、鬼には迂闊に言えない。
目の前の鬼は、母親そのものを知らないのだ。それでも、逞しく生きている快活な友を、天狗は時たま、すごく羨ましく思う。
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