2.天狗の嫁とり(前編)

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天狗は16歳になった。 山で最初に鬼と会ったとき、4歳の天狗と背格好がほぼ同じだったので、鬼も同い年、すなわち16歳ということになっている。 だが、言うことは幼子のままだ。気を許した相手ということもあるが、愚直(ぐちょく)と言えるくらいに言いたいことが言えるのは、生来(せいらい)気質(きしつ)なんだろう。 両親の元で恵まれて育った天狗は、むしろ逆だ。 愛情を受けているのがわかる分、直接、親に我が儘(わがまま)を言ったことがない。 たまに、鬼に向かって愚痴はこぼすが、あくまでも冗談まじりだ。 しかし、付き合いも長い鬼は、わかってるのかわからないのか、天狗が求める返事を返してくれる。 大天狗が鬼を救った格好になっているが、救われたのは、竹馬(ちくば)の友を得た天狗の方なのかも知れなかった。 「まあまあ、代替わりはまだ先だよ。烏天狗たちが噂してるのは、ちょっと違う話だ」 王手を指しながら言う。 え?あ?うわー、と鬼が頭を抱えて、()ねたような顔をする。 天狗が容赦なく鬼を負かして鬼が悔しがるというのは、この天狗の屋敷に出入りする者たちにとっては見慣れた光景だ。 いま、屋敷には、天狗の母親がいるが、もうじき離れて暮らすことになる。多少さみしいような気持ちはあるが、これこそ、鬼には迂闊(うかつ)に言えない。 目の前の鬼は、母親そのものを知らないのだ。それでも、(たくま)しく生きている快活(かいかつ)な友を、天狗は時たま、すごく羨ましく思う。
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