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「なに?嫁?」
鬼は、饅頭を食べていた大きな口を、さらにあんぐりと開けた。
将棋のあとは、一服するというのがすでに長年の習慣になっている。
勿論お菓子とお茶は、天狗が用意したものだ。鬼はいかにも興味津々といったふうに、身を乗り出した。
目の前にいる、自分と同い年の若い天狗の口から、まさか嫁という言葉が出るとは。
「すぐじゃないけどさ」
天狗は、お茶をすすりながら、ひとごとのように話をする。
「うちは15か16で独り立ちする慣例なんだけど、烏天狗が補佐につくことになってて」
うんうん、と鬼が首を勢いよく縦にふる。
「その補佐役と条件が合えば、夫婦にしてしまう場合が結構あるんだよねー。うちの親もそうだし」
お菓子を運んできたあと、奥に戻っていった自分の母の背中を見やる。
「ははあ…」
鬼が、頭の中で色々と考えを巡らしているようだが、何を考えてるかは手に取るようにわかった。
「美人かな」
目を輝かせたまま、天狗に向かって更に続けた。
「胸、大きいかな」
言うと思った。
しかし、そこに全く興味がなかったとしたら、跡取りの男子としてはむしろ問題だろう。
鬼などは、この二つが合格なら、多少性格に難ありだとしても男女関係としては乗り切れると、本気で思っている。
「まあ、理想は両方だよね」
天狗がしれっと言う。
そして、日が暮れるまでの間、美人だが胸が小さい場合と、顔は好みではないが胸が大きい場合、どちらとなら結婚したいかということを、天狗と鬼は、しばし本気で議論していた。
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