2.天狗の嫁とり(中編)

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翌朝。 言われた通り、朝食を食べてから天狗の住まいに来た。 緊張したまま、軒先から中を伺ったが、誰もいない。 寝てるなら一度戻るかと、来た方向に体を向けた瞬間、目の前に壁ができた。 「おー、姉さん早いな!」 見上げると、声と同じくらい能天気な鬼の顔がそこにあった。 なぜこいつもいるのか、とあからさまに嫌な顔をしたが、鬼は彼女の顔を見てほっとした様子で言う。 「あいつ、まだ寝てるみたいなんだよな。起こしてきてくれると助かるんだけどさ」 そう言って屋敷の奥を見る。 朝が弱いとは意外だった。 縁側から上がり込み、廊下を進む。先日まではたまに母親が来ていたようだったが、彼女と組むのが決まってからは、この屋敷には天狗一人しかいない。 一人で住むにはもて余す広さだが、呼ばれていないのに押し掛けるわけにもいかないし、ここに住むのは彼女ではないかも知れないのだ。 そう思い当たった時に、自分でもよくわからないが、納得がいかないような感情が沸き上がった。 「別に、いいけどさ」 あまり良くない口調でひとりごちながら、廊下を進む。 ふと、人の気配を感じた。 奥にある広めの部屋だ。(ふすま)がやや開いており、暗闇の中に何かがいるのが見えた。 遠慮がちに襖を開けると、部屋の真ん中に大きな布団の塊がある。 「…おーい」 廊下から声を掛けたが、布団は微動(びどう)だにしない。 仕方ない、と、灯りの無い部屋に足を踏み入れ、はた、と足を止めた。 これからどうするべきか。 身内以外の異性の部屋に入るのは初めてなのだ 目的は、天狗を起こすというただそれだけだが、実に、寝ている人の起こしかたもわからない。彼女も含め、彼女の家族はみな寝起きが良く、鳥のさえずりでも聞けば、大抵すぐに起きるのである。 「もしもし?朝ですよ?」 2歩ほど離れたところから、遠巻きに声を掛ける。 襖の間から漏れる光が、室内を細く照らす。 布団が少し動いて、顔が見えた。目は(つむ)ったままで、(まぶ)しいのか、やや眉間(みけん)に皺を寄せているが、そのまま寝息を立てている。 ちょっと手強(てごわ)いんじゃないの。 あなぐらから出てこない手負(てお)いの獣を見るように、思案して天狗を見る。こうして見ると、体の大きさも若い熊くらいはありそうだ。 しかし、起きてもらわないとこちらも来た意味がなくなるし、これ以上虚仮(こけ)にされたくないというよくわからない意地も沸いてきて、感情に任せて布団を()ぎ取った。 「起きろ!!」
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