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白い面には狐の顔が描かれており、みな素顔は見えないが、体格から見ると大人ばかりのようだ。
「人間?」
鬼が目を細めながら言うと、いや、と天狗が軽く首を横に振った。
「ここいらの狐は、皆人間の姿に化けられるんだ。そうか、お前あまり山から出ないから見たことがないんだな」
天狗が、どうも、と、気安げに先頭の者に向かって手を挙げ、近くに来るよう促すと、集団は音もなく木立をすり抜けてきた。
赤い髪の鬼と目が合うと、深々とお辞儀をしたので、つられて鬼も頭を垂れた。
「この度は末姫さまを救っていただき、誠にありがとうございます。一族を代表してご挨拶に伺いました。何卒お納めください…」
集団の背後には、行李が三つほど積まれている。
「なんだこれ?」
訝しげな鬼に、先頭の狐面が得意げに答えた。
「お礼でございます。狐の宝、の一つにございます」
ささ、と行李は鬼に向かって押し出されたが、鬼はそれを一蹴した。
「いらねえよ。俺は宝に興味はない。酒なら好きだが、足りてる」
「しかし」
食い下がる狐面の鼻っ面つらに、鬼は大きな手のひらをかざし、言葉を遮る。
「困ってたから助けた。怪我していたから手当てしただけだ。帰っていいぞ。気をつけてな」
もとより、天狗たち以外の者と喋ることも滅多にないので、かしこまったやり取りに慣れていないのだ。
鬼は干菓子を口に放り込みながら、手で帰りを促すが、一行はその場から動かない。
仕方ないと一行に背を向け歩きだした鬼を、か細い声が呼び止めた。
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