1.狐の嫁入り(前編)

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白い面には狐の顔が描かれており、みな素顔は見えないが、体格から見ると大人ばかりのようだ。 「人間?」 鬼が目を細めながら言うと、いや、と天狗が軽く首を横に振った。 「ここいらの狐は、皆人間の姿に化けられるんだ。そうか、お前あまり山から出ないから見たことがないんだな」 天狗が、どうも、と、気安(きやす)げに先頭の者に向かって手を挙げ、近くに来るよう促すと、集団は音もなく木立をすり抜けてきた。 赤い髪の鬼と目が合うと、深々とお辞儀をしたので、つられて鬼も(こうべ)を垂れた。 「この度は末姫さまを救っていただき、誠にありがとうございます。一族を代表してご挨拶に伺いました。何卒(なにとぞ)お納めください…」 集団の背後には、行李(こうり)が三つほど積まれている。 「なんだこれ?」 (いぶか)しげな鬼に、先頭の狐面が得意げに答えた。 「お礼でございます。狐の宝、の一つにございます」 ささ、と行李(こうり)は鬼に向かって押し出されたが、鬼はそれを一蹴(いっしゅう)した。 「いらねえよ。俺は宝に興味はない。酒なら好きだが、足りてる」 「しかし」 食い下がる狐面の鼻っ面つらに、鬼は大きな手のひらをかざし、言葉を(さえぎ)る。 「困ってたから助けた。怪我していたから手当てしただけだ。帰っていいぞ。気をつけてな」 もとより、天狗たち以外の者と喋ることも滅多にないので、かしこまったやり取りに慣れていないのだ。 鬼は干菓子を口に放り込みながら、手で帰りを促すが、一行はその場から動かない。 仕方ないと一行に背を向け歩きだした鬼を、か細い声が呼び止めた。
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