もうひとつの家族

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その話し合いからしばらくして、部屋まで様子を見に行った母親は、また独り言が聞こえてきたそうです。 『なんかそう聞くと、やっぱりかってなった』 『変なの、変なの』 相変わらず、誰かに喋ってるような口ぶりで。 何か幻聴とかそういう類のものなら、やっぱりなんとかして病院に…と思ったとき。 『好きにしたらいいやんな、休学だろうと、退学だろうと』 『もうどうでもいいわ』 『俺、ここでピアノ習えるし』 『そんな“価値”なんか、わかるわけないやろ』 そう聞こえた瞬間、この子はどこでそれを聞いたのか。 その話は、涼太のいない居間でしていたし、本当に誰かそこにいるのか。 それは“誰”なのか。 そう思ったときに、たまらず部屋の扉を叩いたそうです。 「どういうこと?」 「そこに誰かいるの?」 「涼太、答えなさい」 と。 もちろん返事はなかったそうですが。 森「それで、お母様が私に言うたんです。“あまりにも実子が薄気味悪いから、知り合いの伝手で、そういった相談を一度してみよう”と。このまま家ずっと家におると思うと、気持ち悪くてしょうがない、こっちが病みそうやからって言うんです」 でもね…、とモーリー言いました。 森「どうして何もかも、“うちの子が~”ってなるんでしょうか。私はその当時、ある意味はじめての案件やったんですよ。年が近い対象者というのが」 だからこそ、モーリーは思ったそうです。 あまりにも実子が不憫やな、自分と年端も変わらんのに、と。 でもですよ。 こういう話は涼ちゃんに限らず、少なからずあるため、そんなに珍しい案件ではないんです。 そこがまた、なんとも言えない複雑な感じです。
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