もうひとつの家族

14/24

23110人が本棚に入れています
本棚に追加
/172ページ
具体的に何を話したかは、やや曖昧なところも多く、今となっては他愛もない話やったような…と森岡氏。 森「ピアノはお好きですか?と聞いたら、『はい』と返事があったのは覚えています」 ただ、相手のことが読めない以上、不躾にいきなり真実を問うのは、相手を逆上させないかと心配があったので、当初はそんな感じやったそうです。 森「涼太くんはピアノがお上手ですねと言えば、喜んでおられました」 笑い声がしたような気がしますが、それはとても穏やかで、嫌な感じも一切なかったそうです。 森「ただいつまでも雑談と言うわけにもいかないでしょ?どのタイミングで聞き出そうか、私も悩んでました」 こちらの問いかけには簡単に答えはすれど、相手から言葉があったわけでもなく。 森「その日は本当に私が話しかけるだけで終わったんです」 涼太からは何の返事もなかったし、少しの間止んだピアノも、また聞こえてきたしと。 長時間居座るのも、と思い、ご両親に今日は帰りますと告げたらば。 森「“涼太と話せたんですか?”と言われましたが、そうではなくて…(笑)そりゃ私の話し声だけしか聞こえませんもんね、ご両親は(笑)」 また次の日程を告げ、帰ったそうです。 そしてそれから数回、通った森岡氏。 軽く一ヶ月は過ぎていたそうですが、涼太に何か変化があるわけでもなく、変わらず引きこもりは継続していたことに、ご家族、特に母親は、痺れが来ていたことは承知の上やったと言いました。 森「それに関しては、私もわかっていましたが、お金もいただかないという約束もしていましたし、何より今は、無理にどうこうしたくはなかったんです」 それをすることで、涼太の将来にどう関わってくるのか、それが気がかりやった、と言いました。 森「だからと言って、私もただ雑談をしていたわけではないんです」 そこで出てくるのが、おまるでした。
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23110人が本棚に入れています
本棚に追加