23111人が本棚に入れています
本棚に追加
/172ページ
それから面会の度に、映画音楽を弾いてくれたという。
森「その風邪薬以降は、しばらくピアノで変化はあったんですけど、それからそんなに間もなく、涼太の声が聞けました」
それは単純な挨拶で、いつもの如く。
森「“こんばんは、涼太君。森岡です”に、“こんばんは”と、扉越しに」
その時はピアノを弾いておらず、おそらく扉越しにいたんじゃないかと、森岡氏。
森「今考えても嬉しかったですよ。そんなに大きな声でもなかったですが、向き合ってもらえた気がします」
諦めるという選択肢はなかったが、諦めずに会いにきて良かったと思えたそうです。
森「止めるのは簡単なんです、でもそれではまた元通りになってしまう」
その日はひとつ、お願いをしたそうです。
森「私はジャズというものを知らないから、ぜひ聴かせてほしい、と」
すると。
何やら部屋から話し声が聞こえたそうです。
森「涼太は多分、“弾いてもいいかどうか”、“誰かさん”にお伺いを立ててたように思いますが、それから少しして、ジャズを聴かせてくれました」
やはり音楽はわからないけども…と前置きした森岡氏。
森「音が生き生きしていて、上手で、誰かに聴かせる喜びや、聴いてもらう喜びを知っている感じがして、そのまま涼太に伝えたんです」
拍手とともに、と。
そこからは、逆に涼太からいろいろと聞かれたそうです。
森「どうして知らない曲やのに聴きたいのか、とか、何かいろいろ聞かれましたけど、私はその時思ったことを答えてたんです」
その時、どうにもこうにも“揺らぎ”というものを、一瞬感じた森岡氏。
森「それは多分、私だけでなく、涼太も感じたんやと思います」
だから涼太は、「もう来ないでほしい」と言うた、と言いました。
最初のコメントを投稿しよう!