若みど誘拐事件簿。

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典子さんは、自分の人生というもんがどんなもんやったかということを、淡々と語るわけです。 『今思えば私の人生など、結婚と同時に終わったようなもの』 恋愛結婚をし、はたから見れば順風満帆な結婚生活。 でもそれは“見せかけ”だけやと言いました。 結婚、引っ越しもあって仕事をやめたけれど、いずれ復帰してもいいと言った主人は、出産し、子育ても落ち着いたころに復帰がしたいと言えば。 『働かなくても食わせてやれてんのに、子育てせずに仕事がしたいなど我儘すぎる。何が気に入らないのか。自分の稼ぎが悪いと思われる。格好悪いからやめてくれ』 “体裁”を盾に、私には“裕福な家庭の専業主婦”を強いました。 いいえ。 そんな“妻”であり、“母”であって欲しかったのは、自分は家事も育児もせず、生活さえ面倒みてさえいれば、好きに出来る、文句は言わさない、そういうことでしょう。 よく問題を起こす子供、いつも頭を下げるのは私。 気難しい子供、癇癪の相手はいつも私。 やりたい放題は、見て見ぬふり。 離婚も考えてると伝えました。 『主婦しかしてないお前に何が出来る?』 今さら私に何ができますか? ならば。 私が我慢すれば。 私が“良きもの”であれば。 愛人も、子供の勝手も、義両親も。 私が“良きもの”を演じていれば。 結局それは、私というものを否定し、演じ続けていたからこそ、この“家族”は成り立ってきた。 本当に。 くだらない人生でした。 せめて真子だけは、母としてではなく“同じ女”として、自立の道をと望んでいましたが、それも叶わない。 一体私の人生って、なんやったんでしょう。 ハリボテの家族。 見せかけだけの家族。 “祝いの言葉”? あるわけないでしょう? 今まで好き勝手してきたのに、こんな時だけ“母”を必要? くだらない。 『そんなものありません』 ………………………。 まぁ、まとめるとそういうことやったんです。
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