オオカミでも羊でもない男

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「朝倉君さぁ、今度も飲みに行こ。最近暇だし」  というのも、面白いことに、宙も環と同じように、今日関係に終止符がついたのだ。宙は前から付き合っている女の子がいた。しかし、長くは続かなかった。性格の不一致とか、良くある話だ。宙は付き合っても、長くは続かない。それを宙自身が気にしたことはないし、よくあることで、環のように悲しんだりすることはない。だって、恋愛が終わってもその後の関係もあるし、全てが終わるわけではない。だのに環は世界が終わるのではないかと困ってしまうくらいに泣く。  宙の何気ない申し出に、環はこくこくと頷く。下世話な話かもしれないが、こういう約束は相手が弱っているときが良いのだ。特に、警戒心の強い人など、正常に判断できなくなったくらいが丁度いい。……などと考えている宙だが、悪意や下心などなかった。ただこの、自分の世界とは程遠いところに住んでいる妖精のようなこの男と友達になりたかっただけである。  髪を切り終わって、散った髪を払う。ベランダはいつか掃除すればいいのだ。へとへとの環を風呂場にぶち込んで、乱暴に髪を洗う。服は着たままで、風呂桶の方に頭だけを突っ込ませてシャワーをかけて、シャンプーをする。ほんとうはそのまま布団の上にでも倒れさせてやればよかったのだが、さすがに黒髪が散らばるのは勘弁願いたかった。へとへとの環はされるがままで、頭だけ適当に洗い流されてがしがしとタオルで拭かれる。傍目から見たらなかなかの光景だろう。
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