最初から結末などわかっている

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 幸せになれないのは不幸なことかもしれないが、不幸を受け入れらないのは、もっと不幸だと、俺はそう思う。みんなはどう思っているか、まあ、知らないが。ああ、ふと、思い出してしまう。あいつはどうなのだろう。俺と正反対の人生を生きているあいつは、人は幸せになるために産まれてきたのだと、そう言うのだろうか。だとしたら、それほど呆気なく腑に落ちて、胸が苦しくなることも、あまり無いように思う。  俺は背の低い椅子の上に立った。今まで座りこそしたものの、この大事な椅子の上に立ったなど、一度お遊びで立って怒られてから二度としたことはなかった。しかし、こうしなければならなかった。俺は酷く物持ちの悪い性質(たち)で、丁度いい踏み台が無かったからだ。がた、がたと揺れる椅子を、バランスをとることでいさめながら、真っすぐ立つことができた。  普段の目線より少し高い位置から、机の上に目をやる。そこには、一枚のルーズリーフが置いてあるのみだった。そこには、今後のことと、一つの事実のみが数行、簡潔に綴られていた。よし、後はもう大丈夫だ。  俺は丸い窓から、もう一度太陽を見た。まぶしいひかり。  聞いてくれ神さま、俺は幸せだからこうするんだ。あいつのことは、俺が愛されなかった分まで愛してやってくれ。  そう語りかけてから笑い、先に謝ってから爪先で椅子を蹴った。  首に通した輪が重力に従って締め付けてくる中で、俺は苦しみながら、しかし安堵しながら目を閉じた。  ああ、思い出した。この光は、あいつに似ているのだ。やさしくて、大好きで、そして、死んでしまいたくなるくらい、幸せな、あたたかさとまぶしさに。  しかし、俺の話は、最初からハッピーエンドではないと決まっている。
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