オオカミでも羊でもない男

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 自慢じゃないが、だいたい何をやっても器用という称号をいろんな奴から貰っている。もちろん髪を切るのは技術がいるだろうが、しかしこんな伸び放題な髪、気を付ければひどいことにならななそうだと思った。髪を、切ってやろう。そう思ったらもう宙はどんどん動いてしまう人間なので、早々に会計を済ませ、環を連れて行った。  二十四時間営業のドラックストアで千円程度のヘアカット用の鋏を購入した。それから宙の部屋に向かう。その間、冷静になり始めた環がやらなくていい、ていうかやばいと小言で反抗していたが、宙は後悔させないの一点張りで、とうとう連れ込まれてしまった。何故あまり知りもしないクラスメイトの髪を切ろうとここまで躍起になっているのか自分でもわからなかったが、あの生白い首筋を太陽の光に当ててやりたいとか、意外と綺麗な目を見てみたいとか、そういうことを考えていたと思う。後になってみて思えば、自分も大変酔っぱらっていたと、宙は少し反省する。後悔は少しもないが。  遠慮している環だったが、大して反抗もせずずるずると連れてこられたあたりは、満更でもなさそうだ。環をベランダに連れ出し、適当にバスタオルを首元に突っ込んで包めば、準備完了。 「ばっさり切っちゃっていい?」 「……前髪は残してくれ」 「なんで?」 「…………人と、目を合わせるのが苦手だ」  どうやらそういう理由もあるらしい。だから今まで宙が目を合わせようとも頑なにこちらを向こうとはしなかったのだ。今も、目は斜め下に向いたままだ。
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