最初から結末などわかっている

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最初から結末などわかっている

 ああ、夜明けが来てしまった。  ワンルームに夜明けの光が差し込んだ。まぶしさに目を細めて、ああもう今日が終わるのかと安堵した。この部屋を満たす最初の光は、何故だかとてもまぶしくて、とても美しく感じる。一日の始まりの象徴である朝焼けは、今までどうしようもなく憎たらしいものだった。光を知覚するたび、ああ、また一日が始まってしまう、と辟易しながらベッドの中でため息をついていた。だのに、今は違う。あれほど俺を苦しめたはずの光が、今は俺をあたたかく包み込む。それは何かに似ている気がしたけれど、何なのか答えは出なかった。  あれだけ重々しく決意をして、ついに行動を起こすべく、俺は今ここに立っていた。それなのに自分でも変だと思ってしまうくらい、心が凪いでいた。一片の水面(みなも)さえもなく、まるでこれからの俺のことを祝福してくれているような誰かの優しさをなんとなく感じていた。  俺は椅子の表面を指先ででなぞる。もう随分と年季が入っていて、表面はひどく傷ついていた。何度も何度も手入れをしたり、磨いたりしたのに、刻まれた傷跡たちは消えてくれないまま、そこから黒ずんで木目がぼろぼろになっている。時々、そこから木の粉がこぼれるのだ。  これは大切な人からもらった子ども用の椅子だった。子ども用と言っても、その人が幼少期の俺が座るためにくれたほんの小さなもので、しかしその小柄さに似合わず太くて立派な脚が三本、地についていた。けれど譲り受けたその頃から既にちょっとだけぼろくて、足の先は整っておらず、そのせいで少々ガタついた。けれど一等大事なもので、貰った頃、自分の好きなヒーローのステッカーをべたべた張り付けたり、おぼえたばかりの自分の名前の字をマジックで記したりしていた。そして、このガタつきや傷跡さえ愛していた。ほんとうに心が酷い有様の時は、椅子の台座に抱き着き、そのまま動かず一人寂しく泣いていた。
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