勝ってうれしい花一匁

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勝ってうれしい花一匁

 宙は幼い頃、幼稚園に入っていた。そこで、女の子たちが、花一匁をしていた。その頃から既に周りから放っておかれない存在だった彼は少女に手をひかれ、ルールもよくわからないまま男一人だけでそのままごとのような、それでいて人を好き嫌いで競売にかけるような残酷な一面のあるゲームに招かれた。その中での宙は、何度も買われて売られてを繰り返し、向こうのグループに入ったり、また前のグループに戻ったりを繰り返した。自分だけが売り買いされるものだから、一人しか動かせないのだと思い込んでいた。  宙はどこへ行っても、そんな風に一目置かれては、何かと選ばれる存在だった。しかしそれを自慢に思ったことも、疎ましく思ったこともない。来るものを拒まずにいただけだ。可能なら応えるし、気分が乗らなかったり、無理を感じたりすれば、断る。  しかしその態度が卑怯だと後ろ指を指されたとき、理解できなかった。中学生の時、特に好きでもない女の子の誘いを受け入れて、付き合っていたことがあった。それからしばらく経って、何かのいさかいで自分のことは好きではないのかと聞かれた。何故そう思うのだろう? 申し出を承諾しただけで、別に好きだと言ったことは、一度もなかったのに。素直に好きではないと言えば、女子グループから大変な非難を浴びた。泣いたり怒ったりしながら非難するのは、彼女たちお得意の集団戦法だ。  そこで彼は、ああ駄目なのだと気づいた。花一匁のように勝手に売り買いされてはいけないらしい。そして、そこに情がないことは知られてはいけないらしいと気づく。そこから、彼は随分と隠すのがうまくなった。荒波をたてるのは、それほど好きではない。  同時に宙は思う。自分はほんとうのところ、誰にも選ばれたことなどなかったのだと。どれだけ満たされても、いつだって売れ残ったような気分になる。そしてそれを悲しいと思うことはない。
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