第5章 Kepler discovered the law

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無機質な白いクロス張りの天井。 シーリングライトすらない。 あるのは火災警報器と、非常灯だけ。 まあまあのビジネスホテルなら、ベッドサイドに調光ルームライトがあったり、 一流国産メーカーのエアコンや加湿器が備え付けられていたり、するのだろう。 だが生憎、ここは素泊まり2000円台の安宿だ。 連泊していたが、今日、チェックアウトする。 仕事場(・・・)を次の街に移す為だ。 最近、11時までのチェックアウト、15時からチェックインのホテルも増えてきた。 価格競争のしわ寄せで、深夜・早朝のフロント係は手薄だ。 念の為、そういったホテルを転々としている。 ネットで調べることもあるし、エロ系のフリーペーパーを参考にすることもある。 デリヘル嬢を呼べるホテルは、人の出入りに寛容だからだ。 中には、フロントと顔を合わせず、客室と外を往復できる場合もある。 足取りを追われないように、移動はバスや電車をランダムに選ぶ。 スニーカーやアウターも量販のセール品を買う。 スニーカーは現場で足跡を採集される。 マメに変えなくてはいけない。 僕の足のサイズは25.5cmだから、24.5cm~26.5cmのサイズを適当に選ぶ。 アウターは人目に付きやすい。 わざとバックプリントやワンポイント入りのものを選ぶ。 目撃者の印象をアウターに集める為だ。 スニーカーやアウターはいつでも、簡単に捨てられる。 自分の素顔や本名と違って。 その街で最後の仕事をしたら、卸したてのスニーカーに履き替えるのがルーティン。 だから、新しい街に着いたら、スニーカーを買って、お守りの様にリュックに仕舞い込む。 ラストジョブをいつにするかは、(あらかじ)め決めていない。 法則性を持たせたら、警察に分析されてしまうだろうから。 数学、星座、星占い、神話。 世の中、法則で出来ているものが多いんだ。 僕はジプシー。 令和の独りジプシー。 持てるモノは、このリュック一つで事足りる。 ターゲットすら、法則性を持たせない。 一戸建てでも、マンションでも、アパートでも、オフィスだって良い。 そう、法則性がどうのとか、偉そうに語っちゃってるけど、何だって良いんだ。 分かってる。 法則性を持たせないっていう『法則性』に縛られていることくらい。
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