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急に現れたヒステリー女に殴られた。
多分、この子の母親だろう。そこまでは理解できた。
だが、後半の言い掛かりはまるで謎だ。
それにユキテルって誰なんだ?
「やめてママ!」
間に大地が割り込んだ、小さな体で。手にナイフを持って。
「大地っ! 何を持ってるの? 寄越しなさいっ!」
ナイフが阿松大地から、阿松美香の手に渡った。
「あんたなんか、死んじゃえばいいんだ!」
サソリの一刺し。
駆けつけた黒須は、後に警察でそう証言していた。
Life on Marsーー。
米谷昴の、火星の様な、戦いの日々は幕を閉じた。
殺した母親に似た大地の毒親によって。
さそり座の女によって。
さそり座アンタレス。
アンタレスとは、アンチ・アレス。つまり『火星の敵』という意味だ。
そして、黒須も昴を見て動揺を隠せなかった。
自分の若い頃に瓜二つだったからだ。
後に警察から、刺された若い男の身元を伝えられた。
「面識はありませんか? この米谷昴という男に」
警察の手には身分証となる免許証が握られている。
青年に面識はないが、苗字に心当たりがあった。
初恋の相手……米谷先輩……。
風の噂で、彼女は別れた後、出産したと聞いた。
この青年は……。
黒須の通報により、警察が駆けつけて、野次馬で周囲は騒然となった。
このあかつきのスキャンダルは大々的に報じられるだろう。
黒須征輝は、あかつきに、立ち尽くした。
昴は死の瞬間、煌めいたように大地の目には映った。
ぼくはじゆうをてにいれたのかな?
阿松大地は、あかつきに、たちずさんだ。
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