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第1章 Night on the Venus
夜明けが訪れた。
魔法のように星が消えていく、明けの明星だけを置き去りにして。
消えゆく夜空に抗うように、彼は私の腰を深く引き寄せた。
「金星はVenusか……まるで君のようだね」
彼の言葉が空しく響く。
私のことを美しいと言ってくれているのか?
私とは、一緒には居られないと言われているのか?
そんなことも分からないから、余計に空しく響くのだ。
そんな残響も、先程までの火照った芯奥までも、冷えた海風が掻き消していく。
まるで2人を咎めるように。
だから却って、私は彼の肩に頭を預ける。
「そこにあるのに見えなくなるなんて、私達と同じかしら?」
反論にもならない。
私はこんな言葉を返すことしか出来なかった。
彼を困らせるだけ。精一杯のレジスタンス。
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