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7月某日、俺は長崎のオランダ坂を登っていた。と言っても観光しにきたわけではない。仕事で訪れたのだ。
石畳の階段と異国情緒あふれる建物が並ぶ。振り返れば海が望める。
時間は午後1時を回ろうとしていた照りつける太陽で汗が頬を伝う、平日だから人もまばらだった。仕事の打ち合わせは夜だったからまだ時間がある、俺はもう少し歩いてみようと思った時に後ろから声をかけられた。
「すみません、この辺の方ですか?」
女性の声で振り返ると20代前半くらいの女性が立っていた。
「いえいえ、私は東京から今日来て時間つぶししていたところです」
「そうですか、観光で来たのだけど道に迷っちゃって……」
よく顔を見ると端正な顔立ちにまだあどけなさが残っていて可愛らしかった。白いワンピースに麦わら帽子がよく似合う。
「君大学生?」
「はいそうです、夏休みで旅行に来て」
「一人で来たの?」
少し間をおいてから彼女は
「本当は彼氏とくる予定だったんですけど、彼急に仕事が入って」
なんだ彼氏がいるのかと内心落胆しつつも、まあどうせ旅先だからもう会うことはないか、とも思った。
俺はまだこの時の出会いが後の人生を大きく変えるとは思っても見なかった。
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