二〇一八年八月一日の夢

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 神が何故、私やあの少年を救いたもうたのかはわからない。ともかく私は生きていた。それも──あくまで表面上だが──五体満足で。  ふと、家族は今どうしているのだろうと思った。弟達は無事だろうか。  あいつらなら、こんな状況下でもうまく立ち回れるだろう。たとえばこのホテルでも、従業員としてやっていけるに違いない。  愚直に汗水流すことを知っている弟達。机上の数字を動かすことでしか生計を立てられなかった私とは違う。  かぶりを振る。  もうよそう、ともかく私は生き延びたのだ。  どこかでラジオが鳴っていた。何を語っているかまでは聞き取れないが、その遠い唸りは懐かしい記憶を喚起してくれた。  小学生の頃の、ラジオ体操の朝。朝露に濡れた夏草のにおい。  自然、口元に笑みが浮かぶ。  穿かれた大穴から、少年と同じように下界を見下ろす。  かつての海辺の都市は、巨大なクレーターと化していた。  “天使のラッパ”は、潮汐にも影響を及ぼしたのだろうか。その巨大な窪みには海水が流れ込み、湖の如き様相を呈している。  朝日に煌めく水面。美しい眺めだ。  素敵な一日の始まりだった。誰が何と言おうと、この先私の身にどんな変化が起ころうと。
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