マルスと王子

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マルスと王子

***  「マルス、南の森に入る時は用心せよ」  「王子、まさか年寄りどものお伽噺を信じているわけではないですよね?」  騎士は笑いながら王子を見る。  騎士は若い王子を弟のように思っていた。城内ではただの騎士と王子の関係でも、2人きりになると冗談も言える仲だった。  「お伽噺ではない。あの森は不吉だ」  「それはまた、怖いですね」  「真剣に聞け。  いるんだ、生気を吸い取る古代の植物が。  それよりも恐ろしいのが、妖魔だ」  松明の炎が作る影が、王子の顔の上をゆらゆらと踊っていた。  「そんな化物がいたとしても、私が切り刻んで、王子には指1本触れさせません」  「マルス…」  王子の指が騎士の手を掴む。異常な動きで袖に潜り込んでくる。 ――そこで気づく。  こんなはずがない。  これは現実ではなく夢だと。  夢の中とはいえ、懐かしさに浸っていたかった。
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