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長衣の男
騎士は森の奥深くを彷徨っていた。一歩踏み込むごとに、陰鬱さを増す森だった。
森は古く大木は陽の光を遮り、空気は淀んでいた。
(ここさえ耐えれば城に帰れる…)
負傷した左足を引き摺りながらも、目には希望があった。
しばらくして、騎士は薄暗い森の中でそこだけが輝いているように陽の光が差している場所を見つけた。岩の間から水が湧き出、小さな池へと流れていた。
騎士は水を飲み、顔を洗うとようやく地面に腰を下ろした。
(王子が気がかりだ…急がなければ…)
立ち上がろうとしたその時だった。
「どうされました?」
油断しきっていた騎士は、言葉も出ず驚いて男を凝視した。
声をかけたのは、長衣を着た男だった。
「…………こんな森の奥深くに人がいるとは思わなかった。見たところ、猟師でもないようだが……」
男の顔は白く、浮世離れした雰囲気だった。
「騎士様、私はこの森に住むものです。もうすぐ夕暮れです。怪我もしているようですし、私の家に泊まってはいかがです?すぐ傍です」
他にあてもない騎士は、男に従うことにした。
「深い森の中にどうやってこれほどの家を建てた?」
男が貸してくれた服に着替えながら、騎士は首を傾げた。
石造りの家は広く、中の装飾も控えめながらとても庶民の物とは思えなかった。
「飲んで休んで下さい」
男は答える代わりに葡萄酒のようなものを渡した。
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