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カチッ……チチチチチ……
薄暗い静かな部屋に、ガスコンロのつまみを回して火を付ける音が響く。
まだ日が昇り始める前に起きた"かん"が、みんなの朝ご飯を準備するのがここ"ホーム"の1日の始まりだ。
「かん、おはよう」
眠気でぼーっとしながら、まだ半分しか開かない目で一階に降りると、今日もかんがせわしなく朝ご飯の準備に追われていた。
古い小さなアパートの管理人だったかんが改築をして、一階は共用スペースのリビング、二階はそれぞれの部屋となっている。
訳あって家族と暮らせなかった俺たちをかんが引き取り、児童養護施設さながら俺たちを育ててくれている場所だ。
「おはよう、健太。今日はバイトの前のおにぎりいるん?」
少し癖毛がかった茶色い髪を無造作に後ろに束ね、いつもの笑顔でかんが尋ねてくる。
「いや、今日はええよ。バイトの前に広斗とクリスとマクド行こいうとんや」
「ほんまか、ほんならおにぎりいるんは竜星と心優とシスターズで4人やな」
「おん」
目やにで引っ付いた瞼を剥がすために指で目を擦りながら、朝食の支度を手伝おうとキッチンに入る。
朝からかんを入れて8人分の朝食と7人のお弁当作り、それに間食用のおにぎりまで作るかんは大したものだ。
昼なんて学校の売店で買うからええねん……と口にしそうになりながら、かんの作る弁当が好きでいつも黙って手伝う。
赤ん坊の頃からここでかんに育てられた俺にとってかんは母親の様な存在だった。
かんって呼び名も俺が小さな頃に"母さん"と上手く呼べずに"かん"と呼び出したのがきっかけらしい。
「これもうテーブル運んでええの?」
出来上がった目玉焼きとベーコンの乗った皿を掴んでかんに尋ねているとバタバタと数人の足音が聞こえてきた。
うるさい奴らがどうやら目覚めたようだ。
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