634『殺戮クラブ』

EAGLE

　パソコン教室『マチルダ』に通う、田中勇気は派遣切りで心に傷を受けた世代の生き残り。普段は物静かな秀才として平穏な日々を送っているが、それは表向きの顔にすぎない。彼の心の奥底には暗い憎悪と熱い怒りが渦巻き、影では射撃、ハッキング・特殊技術の習得にストイックに没頭していた。この世で信頼するものは金と武器、そして力。
　やがて彼は、心に巣食う闇と日頃培った能力を解き放つかのように、空前の完全犯罪を計画する。最初の殺人、強盗を犯し、逃げおおせる勇気。ただ己のみを信じ、何者をも拒むローンウルフ、田中勇気。“野獣”は野に放たれ、物語は幕を開けた…。

　勇気は、フロッグ自動車の令嬢・北島友梨と情を通じ、同社を乗っ取ろうと企んでいた。だが、ドライブ中に遭遇した刺客の一人が放った銃弾を受けてしまい、友梨は即死。彼女の死体を廃墟で火葬して『始末』をつけた勇気だが、次は友梨の父親に誘拐脅迫状を送りつけ5000万円の身代金を要求した。警察の罠を掻い潜り熱い札束を掠め取った勇気。しかし、そのあとには苦難の道が待っていた。

　フロッグ乗っ取りに失敗し、日本を脱出した勇気は、ハワイの別荘でひっそりと生活していた。だが、日本での悪事を知った国際秘密諜報部『イーグル』が接触。特殊訓練を受け、634の分類番号を与えられた。
　フロリダで行われていたカー・レース大会で、突如出場車の一台が火を噴いた。そのままメイン・スタンドに転落、後続の車も巻き込まれる大事故となった。しかし、その騒ぎの途中でIT企業の社長、仙石道夫と娘、仙石ちひろが誘拐されてしまう。後日、新種の武器『アルファ』を要求する手紙が舞い込む。
『アルファ』は、ステルス迷彩を施された拳銃だ。暗器として重宝されていた。
　誘拐犯が大富豪、クララ・マッカートニーであるとの確信を得た国際諜報部は『634』田中勇気をモナコへ派遣。