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ください4
「あ、そういや……あいつに借りた漫画返し忘れたな」
帰っている途中に急に思い出した鞄の中の漫画の存在に、俺は足を止めた。別に明日でもいいかと思ったが、一度気づいてしまえば気になって仕方なくなってきた。
雨足が強まってきた空を見上げながら、しばらく悩む。
今から走って戻れば、まだ正人に追いつくかもしれない。
「……悩むより、行った方が早いか」
俺は踵を返して、雨の中を駆け出した。
時間にして十分足らずの間走っただろうか。コンビニを通り過ぎたところにある住宅街の中に入った時、俺は違和感を感じて走るのをやめた。
雨の日ではあるが、こんなに人の気配がしないものだろうか。
夜の帳が下りてきた町に周りの家は明かりが灯り始めているものの、何故か人が活動する気配が感じ取れない。
そこの角にあるレトロ感溢れる駄菓子屋は薄暗く中の様子は伺えない。
おんぼろ屋敷と呼び、肝試しの人気スポットと親しむ木造の家。今は冗談抜きで普段より不気味さが増して見える。
馴染みの町に異様な不気味さを感じ始めたその時、目の前の角を勢いよく曲がってきた人と思い切りぶつかる。
その勢いで、お互いの持っている傘が路面に転がった。
「おい!あぶねーだろ!どこ見て……って、正人か?」
「り、り、りょ、涼太!?」
暗がりで最初は良く見えなかった相手の顔をよく見れば、引き攣った顔をした正人が派手に尻餅をついていた。
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