忘れ物をしたんじゃないかと不安にさせる妖精 ジョンジャーナ

1/1
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

忘れ物をしたんじゃないかと不安にさせる妖精 ジョンジャーナ

946b4c4f-6830-4560-a979-6fdac56607e8  洋一郎之介は今日も疳の虫が治まらなくて遅刻気味に家を出ました。もはや三時間目も終わろうとしている時間です。  洋一郎之介は両親が共働きの鍵っ子だったので、家を出る時は必ず戸締りやガスの元栓等を点検してから出なくてはいけません。  鍵を閉めて歩き始めたその時、不意に何かを忘れたような気がしました。 「鍵……閉めたっけ? ガス栓かなぁ……。いや、宿題? とにかく何かを忘れたよ。戻ろう」  洋一郎之介は面倒臭いと思いながらも渋々家に戻りました。しかし、もちろん鍵は閉まってるし、ガス栓もちゃんと閉めていました。 「おかしいなあ……。何だよっ! もういいよ!」  洋一郎之介は何もかも嫌になって、そのままテレビを見ようとリモコンを持ったその時、テレビの暗い画面に映る自分の姿にハッとしました。  頭に何か不思議な生き物が乗っていたのです。それはダンディーな魚の姿をして、ステッキを持ち、そのステッキで洋一郎之介の頭をコツコツと叩いていました。 「ぎゃっ! 君は何!?」 「おやおや。私の姿が見えるのかな? 私の名前はジョンジャーナ。忘れ物をしたんじゃないかと不安にさせる妖精さ。私がこうして君の頭をコツコツする度に君は何か忘れたんじゃないかと思うんだよ」  洋一郎之介にはその行為の意味が見出せませんでした。 「どうしてそんなことするの? 何の意味もないじゃない。それってとっても無駄なことに思えるんだけど。だって別に忘れ物している訳じゃないんでしょ?」  洋一郎之介が頭の上のジョンジャーナにそう言うと、ジョンジャーナは持っているステッキをバトンのようにクルリと一回転させて口をパクパクしました。 「この世に無意味なことなんて無いのさ。こうして忘れ物をしたんじゃないかと思って君が家に戻ってきたことによって私の存在を見つけることができたんだよ。忘れ物をしたと思わなかったら君は私の存在に一生気がつかなかったんだ……。どうだい? 意味が無いなんてことはないだろう?」 「そっか……。そうだね。ホントだね。忘れ物したんじゃないかって不安になることって確かに大事だよ。だって今日も、もしも俺がガス栓を閉め忘れていたら、ひょっとしたらガス爆発が起きていたかもしれないんだしね……。ありがとうジョンジャーナ。この世に無意味なことなんて何も無いって分かったよ……」  洋一郎之介がそう言うと、ジョンジャーナは小粋なタップを踏んだ後、帽子を外してお辞儀をしました。とてもダンディーでした。 「最後はコツコツしないでおくよ……。君が今日のことを忘れたんじゃないかと思わないようにね……」  ジョンジャーナがコツコツしないようにと高く掲げたステッキが消えきるまで、洋一郎之介はずっと頭の上を見続けていました。 「忘れないよ、ジョンジャーナ。この世には無意味なことなんて何も無いってこと……」  洋一郎之介はすがすがしい顔をしていました。学校に行くことをすっかり忘れていたなんて、その時は思い出しもしませんでした。  もしあなたが忘れ物をしたか不安になった時は頭の上を見てみてください。ひょっとすると小さなステッキでコツコツしているジョンジャーナに会えるかもしれません。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!