5月の紙飛行機

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5月の紙飛行機

5月のアパートは少しだけ涼しかった。 太陽の光が心地よい。 ベランダからは涼しい風が吹いている。 まさに、お昼寝日和だ。 しかし、今日はお昼寝日和でもお昼寝は出来ない。 なんて言っても今日は__ 「麦く〜ん。サークル活動始めるよ〜」 今日は俺と水さんのサークル活動の日。 振り返ると机の上は2つの箱が置いてある。 準備万端のようだ。 開けていたベランダのドアを閉めた。 「今行きますよ水さん」 「早く早くー。今日は早く作って公園に行こうね」 「はーい」 水さんと向かい合わせになるように座ると先輩は「おほん!」と咳をした。 静かになった室内に涼しい風が吹いた。 カランカランと水さんの中の氷が溶ける音が響く。 「えー。紙ひこうきサークルの活動を始めたいと思います」 「はい」 「今日は紙ひこうきを作って…公園で飛ばしに行きます!」 「水先輩、活動の帰りにアイス買ってもいいですかー?」 「麦くん! おうちに帰るまでが紙ひこうきサークルだよ!」 「そ……そうでしたね」 「んー…じゃあ、麦くんの食べたいアイス半分こしてくれたらいいよ〜」 「えっ…?」 「ん? 麦くんどうしたの?」 「いや、何でもないっす……」 水さんには恥じらいというものは無いのか? 本当にこの先輩は不思議な人だ。 人ではないけども。 「はい、麦くんの折り紙ケース」 「あ…ありがとうございます」 俺に折り紙ケースを渡すと水さんは黙々と紙ひこうきを折り始めた。 角と角をゆっくりと合わせて…折り紙を広げて三角に折って……。 また……先輩をじっとみていた。 早く自分の紙ひこうきも作らなくては……。 先輩と同じように角と角をゆっくりと合わせて…。 広げて三角に折って……。 ……ダメだ。 俺が作った紙ひこうきは角と角があってなく不格好になっている。 前を見ると水さんが作った紙ひこうきが机の上にあった。 両方の翼が均等で綺麗だ……。 「やっぱり先輩が作った紙ひこうきは綺麗ですね」 「そう? 麦くんだって上手くなったよ!」 「そうっすか?」 「うん! 前は折れなかったでしょ?」 「あー……そういえばそうでしたね」 サークルに入る前は全然折れなかったな。 水さんが教えてくれたからだろう。 「はい! それじゃあ公園まで行きましょうか」 「はー……あの、先輩」 玄関へと向かう水さんを呼びかけた。 「ん? どうしたの麦くん?」 「外、雨降ってますよ」 「え?」 窓を指さすと先程までの晴れではなく黒雲から大きめな雨粒が降っていた。 窓を見て先輩はゆっくりと膝から崩れ落ちた。 そんなに紙ひこうきを飛ばしたかったのか。 「先輩…また今度晴れた時に飛ばしに行きましょう。」 「うん……」 「一緒にアイス食べながら帰りましょう? ね?」 「んー…じゃあ、今日は諦める」 「よかった……」 「じゃあ…明日晴れたら飛ばしに行こうね!」 え? 明日飛ばしに行くんですか?
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