6月の公園

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6月の公園

「麦くん! 晴れたよ!晴れたから公園行こうよ〜!」 部屋で大学のレポートを書いていたら、後ろからひんやりとするグラス頭の水さんがピタッとくっついた。 ひんやりとするのはするのだが……。 「水さん……まだ朝の8時ですよ?」 「今行ったら雨の心配しなくて大丈夫だから! ほら、早く行こーよー!」 「わかりました……」 「それと、今日はこの前飛ばせなかった紙飛行機も持っていこうね!」 「はーい」 水さんはワクワクしながら準備を始めた。 いつも使っているリュックサックに紙飛行機を大量に入れている。 まるで、遠足前の子どものように見えた。 「麦くん僕のこと子どもっぽいって思ったでしょ!」 「えぇ…!?…顔に出てましたか?」 「出てたもん…!!」 「ごめんなさい……可愛いなって思ったので…」 「……僕可愛くないもん」 水さんはそう言ってぷいっと顔を横に向けた。 「水さん…機嫌直してください…」 「…………」 「俺…水先輩に嫌われるのは嫌っすよ……」 「…………」 「ほら…仲直りしましょう……?」 ゆっくりと水さんの前で腕を広げた。 水さんはすぐにギュッっと抱きついてきた。 「ごめんなさい水先輩……」 「僕も……ごめん……」 水さんは俺に抱きつきながらそう呟いた。 物凄く恥ずかしい。 「そ…それじゃあ公園いきましょうか?」 「うん、行こっか…!」 そう言いながら俺から離れていった。 なんだろう…物凄く寂しい気がする。 理由は……分からなくもないけど。 認めるのが……なんだか怖い。 認めたくても…どうすればいいのか分からない。 俺は水先輩のことが__ 「麦くん! 早く行こうよ!」 「あっ……。…行きましょうか」 水さんに腕を引っ張られて俺は考えることを辞めた。 今は先輩と一緒に公園に行こう。 今はこの時間を大切にしなくては…。 * * * 「えー……それでは紙飛行機サークルの活動を始めます!」 「はい」 公園に着くなり先輩はジャングルジムに上がった。 前に聞いたのだが、ジャングルジムだと俺の事を上から見れるから登っているらしい。 「今日の活動は、先日飛ばせなかった紙飛行機を飛ばす活動です! 飛ばした紙飛行機はちゃんと持ち帰るように!」 「はーい」 「それじゃあ……いくよー!」 水さんの合図で作った紙飛行機を飛ばす。 水さん曰く少し腕から上に真っ直ぐ飛ばすと良く飛ぶらしい。 真っ白な2台の紙飛行機が風に揺られて飛んだ。 数秒間だったが、すぐに地面に突き刺さってしまった。 ゆっくりと地面から抜くと紙飛行機の先端が折れている。 これじゃあ飛ばせないな…そう思いながら水先輩の紙飛行機を見る。 風に吹かれてもぶれること無くゆっくりと着信して行った。 まるで、本物の飛行機の着地を見ているかのようだ。 「やっぱり水先輩にはかなわないっすね」 「麦くんだって飛ばせるようになったよ!」 「そうっすかね…?」 「次の活動の時はもっと飛ばせる紙飛行機の作り方を教えてあげるよ!」 「……それは前から教えて欲しかったっすね…」 「じゃあ、私の紙飛行機貸してあげるから……もう1回飛ばそうよ!」 「ありがとうございます」 水先輩から薄水色の紙飛行機を貰った。 まるで水先輩のグラスに注がれている水のような色だ。 「それじゃあ……いくよ!!」 水先輩の合図で俺は紙飛行機を飛ばす。 2台の紙飛行機がカラッと晴れた6月の空に飛んだ。 まだ梅雨の来ない6月の空は晴天だった。 その後、水先輩が飛ばした紙飛行機が俺の麦わら帽子頭に刺さったのは…当分忘れられなそうだ。
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