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5月の商店街
同じ大学とサークルの先輩後輩で、同じ寮で生活していた俺たちは訳あって寮を追い出された。
どうやって生活しようかと考えていた先輩は俺に一緒にシェアハウスをしよう…と提案した。
***
5月の商店街は夏のように暑かった。
シェアハウスを初めてから早1ヶ月、意外にも早かったと俺は感じた。
そんなクソ暑い中、先輩の水さんと俺は買い出しに出ていた。
大きな買い物袋を2人で持ちながら歩いている。
「麦くん暑いねぇ…」
とグラス頭の水さんが呟いた。
汗をかいているのかグラスには水滴がついている。
相変わらず表情が分からない。
それでも、暑そうなのは何となく理解出来た。
「そうっすねぇ……」
と麦わら帽子頭の俺__麦は呟いた。
俺の返答を聞いて水さんは「暑いねぇ…」と返した。
……物凄く気まずい。
ただですら水さんとの会話が少ないのに、俺は会話を続けられない。
俺にコミュ力があったらな…と何度考えただろうか。
カサカサと買い物袋が音を立てる。
それにしても色々と買ったものだ。
八百屋や精肉店以外にも100円ショップや雑貨屋などたくさん回った。
いつもより買い物袋が重たい。
「色々と買いましたね…。麦茶とか……ストローとか 」
「えへへ……買い物に突き合わせちゃってごめんね?」
「いやっ…別に……水さんが手伝って欲しいことがあったら手伝いますよ。……普通の事をしただけですって!!」
「そう? ありがとう麦くん。」
そう言ってまた俺たちの会話は無くなった。
話す事をあれやこれやと考えていたが、全く思いつくことも無く家に着いてしまった。
水さんが鍵を取り出してゆっくりと鍵穴に差し込んだ。
そして、ゆっくりと扉を開けると家の中からもわっとした空気が流れてきた。
数時間だけ開けていた家は外よりも暑くなっていたようだ。
靴をほおり投げて大急ぎで俺は扇風機のスイッチを入れる。
貧乏なアパートで暮らしている俺たちにクーラーという便利なものはなかった。
「麦くん靴はちゃんと揃えてよね〜」
そう言って水さんは机に買い物袋を置き買ってきた氷を自身のグラスの中に少し入れた。
「涼しい……」
水さんはそう呟いてソファーに寝転んだ。
俺も水さんの頭に触った。
ひんやりとしている。
ずっと触って容れそうな程に……。
いっその事、このまま………。
「麦くん……ちょっと…重いよ…」
「あっ……すいません」
「いいよいいよ……涼しかったでしょ?」
「そうっすね…涼しくて気持ちよかったです」
「ん……よかった」
そう呟いて水さんは窓を開けた。
外はもう夕方だった。
オレンジ色の夕日がゆっくりと沈んでいく。
クーラーも無いしすきま風が入ってくるおんぼろなアパートだがこの景色だけは好きだ。
本当にこの部屋で良かったと俺は思う。
先輩がどう思ってるかは知らないが。
「俺…好きだな」
「…僕も」
「……水さん?」
「えっと…その……あはは……」
「水先輩…大丈夫ですか?」
「ごめん…今日氷入れすぎたから…少し頭痛い……」
そう言う先輩の顔は夕日のように照れているように見えた。
何となくだけど。
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