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家啖い
鈴。
の音が、峠道を下ってゆく。
市女笠をかぶり、竹の杖をついた女が、牛を連れて歩いていた。
鈴は、市女笠の端にぶら下がっていた。
笠から垂れた虫の垂れ衣にすっぽりと隠されて、女の全身は影になっている。
女が連れている牛は、みごとな黒毛の牡牛だった。
大きな荷物を背負わされている。
身体の片側に、大人の男が楽々と入れそうなくらいの桶。
もう片側に、綱で結わえた石臼。
背中には、ぎっしり中身が詰まった重そうな袋を複数と、木製の箱や枠などの道具類が、うずたかく積まれている。
人間なら十人がかりでも潰されてしまいそうな大荷物だ。
それを、少しも苦にした様子もなく、牛はのんびりと女の後ろを歩いていた。
鈴を鳴らせながら、牛を連れた女が、森のなかの坂道を下っていくと、
「止まられい。
止まられい」
武装した男たちが、立ちはだかった。
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