3人が本棚に入れています
本棚に追加
「我が殿、辰太郎様は、無類の酒好きでござってな。
美味い酒があると聞くと、どんなに遠方の、たとえ他国の酒でも、取り寄せて味を試さずにはおられぬ。
で。
このほど、あの栗鼠森峠を越えて、やっと届いた酒がござったのだが」
そんなにいい酒ならば、自分が飲みたい。
と息子殿。
忠右衛門が主君・馬上辰太郎弓重から預かっていた、酒の代金と、受け取りのための割符を盗むと、峠を越えて運搬してきた商人に提示した。
約束通りの代金と、正式な割符を持っているのだから、商人は酒を渡してくれる。
この交渉は、忠右衛門が管理している関所の手前で行われた。
金と割符が紛失していることに忠右衛門が気づいたときには、とっくに息子殿は、いつも連れ歩いている悪童たちと一緒に、峠道の途中にある山寺に立てこもってしまっていたのである。
火縄銃まで持ち出しているので、酒に酔った勢いで、もし峠を通る者を、
「まと」
にして遊びだしたりしたら、一大事だ。
最初のコメントを投稿しよう!