家啖い

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「他愛もない悪戯のつもりなのだろうが、今回は、ちと度が過ぎておる。  もし事の次第が、殿に知られれば、どんなお咎めがあるか」  自分と息子とが、腹を切るだけで済めば、まだいい。  と言って、忠右衛門は下唇を噛んだ。 「武士の奉公は、懸命なのでござる。  命を懸けて主君に尽くし、家を、家来を守る。  耐えがたいことも多い。  だが、そこを忍ぶことこそが、武士の生きる道なのだ。  それが、あいつは、わかっておらん」  忠右衛門は、首を左右に振って、一息に盃を干した。  対面している摩利藻の双眸が、その瞬間、金色に光った。  その光は、部屋全体を黄金色に染めるほど強い光だったが、目をつぶって酒を飲んだ忠右衛門が、ふたたび目を開いたときには、もう消えていた。  摩利藻は、いたずらが成功した子供みたいに、忠右衛門が気づかないほどのかすかさで笑った。
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