家啖い

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 摩利藻は、美女だった。  絶世、といっていい。  色素の薄い体質らしく、腰まである髪は黒くなく、灰色がかった焦げ茶色だった。  肌は抜けるように白く、内側を流れる血の色を透かして、唇や目尻が、紅を塗ったように赤い。  長旅を続けているというが、身にまとった小袖は少しも垢じみておらず、雲がかかった満月を描いた柄も、さっき染めあげたばかりのように、くっきりと鮮やかだった。 「お武家の道は、わかりませぬが。  息子殿の鉄砲には、わたくしも驚きました。  よほど修練を積まれたのでしょう」 「まさか、修練など。  昨日、初めて触ったようなものでござる」 「ならば、なおさら。  息子殿は天才です。  鉄砲といえば、これからの天下を決めるかもしれぬ、といわれる新兵器。  鉄砲の天才は、すなわち武士の天才である、と言われる時代がくるかもしれませぬ」
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