家啖い

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「息子が、武士の天稟に恵まれている、と」 「戦を知らぬ、おなごの戯言にございます。  戯言ついでに申し上げまするが、いま、天下は激しく動いております。  昨日までの正しさが、明日も正しいままとは限りません。  槍が主役の戦場と、鉄砲が主役の戦場では、武士の心構えも、おのずと違ってくるのではないでしょうか」 「摩利藻殿は、厳しい。  それがしは時代遅れと申されるか」 「そのような意味では。  差し出がましいことを申しました」  忠右衛門は、豪快に笑った。 「たしかに、たしかに。  摩利藻殿の申される通りでござる。  いつまでも、それがしのような老いぼれが、でしゃばるものではござらん。  いや、しかし。  息子に、武士の天稟が、なあ」  ため息をつく忠右衛門は、嬉しそうだった。
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