家啖い

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 朝靄にかすむ石段をのぼって、境内へ。  本堂の軒下で、若者が五人、鼾をかいていた。  摩利藻は、彼らを起こさないように、そっと忍び寄り、彼らのそばに積まれている樽の山を調べた。  樽は十五個あった。  うち七つには、忠右衛門に聞いた通り、酒が入っていた。  残り八つには、火縄銃がおよそ百丁と、弾丸と火薬が詰まっていた。  摩利藻の背後で、硬い音がした。  いつの間に起きたのか、若者の一人が、火縄銃を持って立っていた。  若者は、火縄銃の銃身で、軒下の柱を、カツンカツン、とくりかえし叩いた。 「誰かと思えば。  昨日の、牛の、豆腐売りか。  豆腐は俺も食べたことがない。  もらおう。  いくらだ」  言いながら、大あくびをする。  昨日、山の奥から聞こえた声だった。  犬村の息子、狐十郎(こじゅうろう)である。
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