家啖い

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 狐十郎は、背の高い青年だった。  しなやかで長い手足は、伸び盛りの若木を思わせる。  まるで切り株のようなずんぐり体形の忠右衛門とは対照的だ。  ボサボサの髪を、つむじのところで無造作に束ねた髪型。  袖を破りとった小袖を、ちぎれかけの荒縄を帯にして着ていた。  小袖は寸足らずで、太ももの半ばから素足が露出している。 「豆腐はありませぬ」 「そいつは残念。  では、何用だ」  無精髭がかゆいのか、あごを指で掻きながら、狐十郎は腫れぼったい半眼で、摩利藻を値踏みするように見た。 「山を下りて、お酒を返すように、説得に参りました」 「親父殿に頼まれたか」 「いいえ。  お話を聞いて、お役に立とうと思いたちました」 「なるほど。  よかろう」
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