家啖い

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「やはり、酒だけだと嘘をついたか。  親父殿は正直者でな。  それはもう、正直の国から正直をひろめにきた正直者みたいな、正直者じゃ。  その正直者が、嘘をつく。  武士の道とやらが、嘘をつかせる。  まっこと武士とは、たいしたものよ」  酒は隠れ蓑。  荷の本体は、火縄銃だった。  運ぶ際に、他国を通らなければならないので、荷の中身を問われたときに、 「酒だ」  と偽れるようにしたのだ。 「火縄銃を返さねば、どうなるか。  おわかりにならないのですか」  摩利藻はたずねた。 「まず命はあるまいな。  俺も、親父殿も」  ごくあっさりと、狐十郎は答えた。
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