3人が本棚に入れています
本棚に追加
髭の先端をピンととがらせた、初老の男が、進み出て言った。
「ここは馬上家が領内、狸穴郷である。
それがしは、馬上家が家臣、犬村忠右衛門。
この栗鼠森峠の防備を任されておる」
女が素性と旅の目的を答えると、忠右衛門は髭をいじりながら、ふむふむとうなずいた。
「摩利藻殿と申されるか。
豆腐売りとは、珍しい。
その、牛の背にあるのが、豆腐か」
「豆腐は傷みやすいゆえ。
これは材料と道具にございます」
「豆腐とは、うまいものらしいな。
それがしは、まだ食べたことがないが」
では、見たことはあるので。
と忠右衛門の家来らしい一人が言った。
「ばかもん。
あるわけなかろう」
忠右衛門は、大口を開けて、ガハハ、と笑った。
最初のコメントを投稿しよう!